
職場での人間関係に、なんとなく違和感を感じているという方は少なくないと思われます。
「これって普通のことなのだろうか」「気にしすぎなのだろうか」と自分を疑ってしまうこともあるかもしれません。
職場におけるモラルハラスメント(モラハラ)は、暴力のように目に見えるものではなく、日常の何気ない言動のなかに潜んでいる場合があります。
そのため、被害を受けている本人でさえ、それがハラスメントだと気づかないまま精神的なダメージを受け続けてしまうことがあります。
この記事では、厚生労働省の資料をもとに、見過ごしてしまいがちな職場モラハラの危険サイン7つをわかりやすく解説します。
サインを知ることで、早めに対処できる可能性が高まります。
職場のモラハラには、はっきりとした7つの危険サインがあります
厚生労働省は、職場でのパワーハラスメントを6つの類型に整理しています。
モラハラと呼ばれる精神的な嫌がらせの多くは、この類型のなかに含まれていると考えられます。
気づきにくいとされる危険サインを具体的にまとめると、以下の7つが挙げられます。
- あいさつや業務連絡を無視する
- 会議や情報共有から特定の人だけを外す
- 人前で繰り返し侮辱・叱責する
- 達成困難な仕事を課し、失敗を責める
- 能力に見合わない仕事しか与えない、または仕事を取り上げる
- 私生活や個人情報にしつこく踏み込む
- 問題を指摘するとさらに孤立させたり不利益を示唆したりする
これらは、一度きりの出来事ではなく、継続的・反復的に行われているかどうかが重要な判断のポイントとなります。
なぜモラハラは気づきにくいのでしょうか
職場のモラハラが発見されにくい理由には、いくつかの構造的な要因があります。
理由を理解することで、自分や周囲の状況をより客観的に見られるようになる可能性があります。
日常の延長線上に紛れ込んでいるため
職場での無視や情報共有の漏れは、単なる「連絡ミス」や「業務上の行き違い」として処理されてしまいがちです。
「忙しくて気づかなかっただけかもしれない」「自分の思い違いかもしれない」と、被害を受けている側が自ら状況を正当化してしまうことがあります。
また、加害者側が意図的に「自分はただ業務上の指導をしているだけ」という形を取ることもあります。
そのため、第三者から見ても判断が難しい状況が生まれやすいとされています。
被害者が「自分が悪い」と思い込みやすいため
モラハラの特徴の一つとして、被害を受けている側が自信を失い、「自分に問題があるのではないか」と感じるようになることが挙げられます。
特に、上司など優越的な立場の人物から繰り返し否定的な言動を受け続けると、次第に自己評価が低下していく可能性があります。
この心理状態に陥ると、問題を外部に相談することへの抵抗感が生まれるため、被害が長期化しやすいという点が深刻な課題とされています。
「ハラスメントの定義」が曖昧に感じられるため
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを「①優越的な関係を背景にした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えること、③就業環境が害されること」の3要素をすべて満たすものと定義しています。
しかし、日常の場面ではこれらの基準を自分で当てはめることが難しく、「これはハラスメントなのか、それとも普通の指導なのか」と判断に迷ってしまう方が多いと思われます。
適正な業務指示や指導は、それだけでパワハラとは判断されません。
だからこそ、具体的なサインを知っておくことが重要です。
7つの危険サインを具体的に確認しましょう
以下では、厚生労働省の資料をもとに、気づきにくい7つの危険サインそれぞれを、具体的な場面とともに解説します。
サイン1:あいさつや業務連絡を無視する
毎朝のあいさつに返事がない、メールや報告に対して特定の人だけ返信されない、といった状況が継続している場合は注意が必要です。
厚生労働省は「無視」を、人間関係からの切り離しの例として公式に挙げています。
一度の行き違いであれば偶発的なこともありますが、特定の人に対して繰り返される無視は、意図的な排除である可能性があります。
サイン2:会議や情報共有から特定の人だけを外す
必要な会議に呼ばれない、チーム全体に共有されるはずの情報が届かない、といった状況が続いている場合も危険なサインの一つです。
「仲間外し」も、厚生労働省の公的な例示に含まれています。
業務上必要な情報が届かなければ、仕事のパフォーマンスが低下し、その結果として「仕事ができない人」というレッテルを貼られるリスクもあります。
サイン3:人前で繰り返し侮辱・叱責する
ミスを指摘すること自体は、通常の業務指導として必要な場合があります。
しかし、他の社員がいる場で人格を否定するような言葉を使う、大声で長時間にわたって叱責を繰り返すといった行為は、精神的な攻撃に当たる可能性があります。
厚生労働省の資料でも、他の人の面前での大声の叱責や侮辱が、精神的な攻撃の例として示されています。
サイン4:達成困難な仕事を課し、失敗を責める
必要な教育や支援がないまま、到底達成できない目標を与え、できなかった場合に強く責める、という行為は「過大な要求」として整理されています。
業務に関係のない雑用を強制し続けることも、この類型に含まれる可能性があります。
サイン5:能力に見合わない仕事しか与えない
合理的な理由がないまま、本来の役割より大幅に低いレベルの作業しか与えられない、あるいは意図的に仕事を取り上げられるといった状況は「過少な要求」として問題となる可能性があります。
表面上は「楽な仕事にしてあげた」という形を取ることもあるため、本人が被害に気づきにくいサインの一つとされています。
サイン6:私生活や個人情報にしつこく踏み込む
業務との関連性がないにもかかわらず、プライベートな事情を繰り返し聞き出そうとする、個人情報を本人の同意なく他者に話すといった行為は「個の侵害」として厚生労働省の類型に含まれています。
「コミュニケーションの一環」として行われることが多く、はっきりと断りにくい状況が生まれやすい点が特徴です。
サイン7:問題を指摘するとさらに孤立させたり不利益を示唆したりする
社内の相談窓口や上司に状況を伝えた後、無視や情報遮断が強まった、口止めをされた、評価や配置転換について不利益をほのめかされたという場合は、特に深刻なサインと考えられます。
相談をためらわせる環境そのものが、問題の継続を助長するとされています。
日時・発言内容・関係者・その後の変化を記録しておくことが、後の相談時に非常に重要となります。
実際の職場でどのように現れるか、具体例で確認しましょう
サインの概念だけでは判断しにくいこともあるため、実際の職場場面に近い具体例を通じて確認します。
具体例1:営業部での情報排除のケース
Aさんは入社3年目の営業担当です。
あるときから、チーム全体で行われていた週次ミーティングへの招集がなくなりました。
理由を聞いても「今回はいいから」と言われるだけで、業務に必要な顧客情報も共有されなくなりました。
その結果、Aさんは重要な案件を把握できず、業務成果が低下。
上司からは「なぜこんな基本的なことも知らないのか」と人前で叱責されるようになりました。
このケースは、「情報共有からの排除」と「人前での叱責」が複合的に行われているパターンと思われます。
具体例2:目標設定を利用した過大な要求のケース
Bさんは中堅の事務担当者です。
上司からは毎月、他の社員の3倍以上の処理件数を目標として課されていました。
支援やマニュアルの整備は一切なく、月末に目標を達成できないたびに「やる気がない」「この程度もできないのか」と繰り返し責められました。
Bさん自身は「自分の能力が低いのかもしれない」と考え、長期間にわたって問題を抱え込んでいたとされています。
このケースは、合理的根拠のない過大な目標と、達成不能を意図した叱責が組み合わさったパターンの一例です。
具体例3:相談後に不利益をほのめかされたケース
Cさんは職場での無視や情報遮断が続いたため、人事部に相談しました。
しかし、その直後から直属の上司の態度がさらに冷たくなり、「そういうことをする人間は評価に影響する」という発言があったとされています。
相談したことで状況が悪化するという経験は、その後の相談行動を強くためらわせる要因になります。
相談後の変化も含めて記録を続けることが非常に重要です。
職場のモラハラの危険サインに気づいたときのまとめ
この記事でご紹介した7つの危険サインを改めて整理します。
- あいさつや業務連絡を無視する(人間関係からの切り離し)
- 会議や情報共有から特定の人だけを外す(仲間外し)
- 人前で繰り返し侮辱・叱責する(精神的な攻撃)
- 達成困難な仕事を課し失敗を責める(過大な要求)
- 能力に見合わない仕事しか与えない(過少な要求)
- 私生活や個人情報にしつこく踏み込む(個の侵害)
- 問題を指摘するとさらに孤立させたり不利益を示唆したりする
厚生労働省の2023年度調査によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたと回答した労働者は19.3%にのぼるとされています。
また、2023年度に都道府県労働局に寄せられたパワハラ関係の相談件数は62,863件に達しており、職場のハラスメントは個人の問題にとどまらない社会的課題と言えます。
ただし、これらのサインに該当する状況があるからといって、直ちに法的なハラスメントと確定するわけではありません。
業務上の必要性や状況全体を踏まえて判断されるものです。
まず大切なのは、日時・発言内容・場所・関係者・業務への影響を記録として残しておくことです。
記録があることで、相談時に事実関係を整理しやすくなります。
一人で抱え込まずに、まず記録と相談から始めましょう
「これはモラハラなのか、自分が敏感すぎるのか」と迷っている段階でも、相談すること自体に意味があります。
社内の相談窓口や人事・労務担当者、信頼できる上司に話してみることが、一つの選択肢です。
社内での対応が難しいと感じる場合や、外部に相談したい場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーで電話または面談による相談を受け付けています。
無料で利用でき、匿名での相談も可能な場合があります。
「気にしすぎかもしれない」という気持ちを、自分一人で抱えたまま時間を過ごすことが、最も精神的な負担になる可能性があります。
サインに気づいたときが、行動を起こすタイミングです。
あなたさんが安心して働ける環境を取り戻すための第一歩として、まずは記録を始めることから、今日できることをひとつ試してみてください。